Share

CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―
CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―
Author: 天咲琴乃

第1話 24歳で処刑された令嬢

Author: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-05-31 12:18:54

私は二十四歳で処刑された。

冷たい石畳の上に膝をつく。

首には重い枷。

広場には大勢の民衆。

空はどこまでも青く、今日が私の処刑日だということが信じられなかった。

ルピナス・カーディナル。

侯爵家の長女。

第一王子ローゼンの婚約者。

そして――国家反逆罪の罪人。

反逆などしていない。

私はこの国のために勉強した。

王妃候補として歴史を学び。

外交を学び。

政治を学び。

夜更けまで本を読み続けた。

すべては未来の王となるローゼン殿下を支えるためだった。

それなのに。

私の視線の先にいる彼は、一度もこちらを見ようとしない。

隣には美しい女性が立っていた。

隣国の王女、マーガレット。

彼女は私を見ると、勝ち誇ったように微笑んだ。

その笑顔だけで十分だった。

ああ。

全部、この女だったのね。

「罪人ルピナス・カーディナル」

処刑人が宣告を読み上げる。

私は静かに目を閉じた。

せめて最後に。

一度だけ。

彼の声が聞きたかった。

「殿下……」

かすれた声で呼ぶ。

ローゼンはゆっくりと私を見た。

その青い瞳に、かつての優しさはなかった。

「ルピナス」

彼は冷たく言った。

「俺の言うことを聞かない女など必要ない」

――ああ。

そう。

私は貴方のために生きてきたのに。

貴方は一度も私を見ていなかったのね。

胸の奥で何かが音を立てて壊れた。

そして。

ギロチンの刃が落ちる。

ストン。

不思議なくらい痛みはなかった。

身体から体温が抜けていく。

手が冷たい。

足も冷たい。

眠い。

ああ。

これで終わりか。

私は目を閉じた。

「ルピナス様!」

聞き慣れた声がした。

「お薬をお持ちしました!」

……え?

私はゆっくり目を開けた。

見慣れた天井。

見慣れた部屋。

見慣れたカーテン。

そこは処刑場ではなく、私の自室だった。

私は勢いよく身体を起こす。

「えっ?」

首がある。

手もある。

生きている。

慌てて鏡を見る。

そこに映っていたのは二十四歳の私ではなかった。

まだ幼さの残る、二十三歳の私。

「まさか……」

コンコン。

扉がノックされる。

メイドが顔を出した。

「ルピナス様。お客様がお見えです」

お客様。

その言葉を聞いた瞬間。

私は思い出した。

今日。

この日。

忘れるはずがない。

風邪を引いて寝込んでいた私の見舞いに、ローゼン殿下が来た日だ。

そして――。

私が彼を好きになった日。

「嘘……」

つまり。

私は。

処刑される一年前に戻っている。

メイドが微笑む。

「殿下をお通ししてよろしいですか?」

私は思わず立ち上がった。

よし。

分かった。

やることは一つだ。

同じ未来にならなければいい。

同じ男を好きにならなければいい。

同じ婚約をしなければいい。

簡単じゃない。

私は拳を握った。

「通してちょうだい」

しばらくして。

扉が開く。

金色の髪。

青い瞳。

誰よりも美しい顔。

かつて私が人生を捧げようとした男。

ローゼン王子が現れた。

彼は少し照れたように笑った。

「ルピナス」

やめろ。

その顔に騙されるな。

未来の私は知っている。

イケメンでも。

声が良くても。

女ったらしは女ったらしだ。

ローゼンは私のベッドの傍へ歩み寄った。

そして真剣な顔で口を開く。

「もし良かったら俺と――」

私は即答した。

「結構です!!」

部屋が静まり返る。

ローゼンが固まる。

「え?」

「結構です!!」

「え?」

「付き合っていただかなくて結構です!!」

ローゼンの顔から血の気が引いた。

私は心の中でガッツポーズした。

よし。

未来回避、第一歩成功。

(第2話へ続く)

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第68話 父の願い

    世界樹の祭壇が激しく揺れた。絶望の化身が翼を広げるたび、王都全体が悲鳴を上げるように震えている。城壁では、なおもフジとヘリアンサスが魔物の群れを食い止めていた。ローゼンは兵士たちを率い、最後の防衛線を守っている。誰も諦めてはいない。だが、誰もが限界だった。ラベンダーは静かにルピナスを見つめる。「花の巫女。」「世界樹は、あなたを待っています。」ルピナスは大きく息を吸い、祭壇へ一歩踏み出そうとした。その時だった。「待ちなさい。」重厚な声が祭壇に響く。振り返ると、サクラディウス国王がゆっくりと歩いてきた。王冠を戴き、王衣をまとったその姿は、威厳に満ちている。しかし、その瞳に宿っていたのは王としての厳しさではなく、一人の父親の優しさだった。「父上……。」ルピナスは思わず立ち止まる。サクラディウスは娘の前まで歩み寄ると、そっと肩へ手を置いた。「幼い頃のお前は、泣き虫だったな。」突然の言葉に、ルピナスは目を丸くした。「庭で転んでは泣き、木登りに失敗しては泣き、ダリアの後ろへ隠れてばかりいた。」「ち、違います……!」「少しだけです。」思わず反論すると、国王は穏やかに笑った。「そうだったか。」その笑顔は、王ではなく父親だった。ルピナスの胸が熱くなる。前世では、父とゆっくり話した記憶がほとんどない。王として忙しく、自分も王女として必死だった。「父上……。」サクラディウスは静かに首を振る。「すまなかった。」その一言に、その場にいた全員が息を呑んだ。「私は王であることを優先し、お前の父である時間を失ってしまった。」「苦しかった時も。」「泣きたかった時も。」「私は気づいてやれなかった。」ルピナスは首を横に振る。「違います!」「父上は国を守って……。」「それでもだ。」国王は娘の言葉を優しく遮った。「どれだけ立派な王でも、娘を孤独にしたなら父としては失格だ。」ルピナスの瞳から涙があふれた。サクラディウスはその涙を親指でそっと拭う。「ありがとう。」「お前は私の娘に生まれてきてくれた。」「それだけで、私は幸せだった。」ルピナスは堪えきれず、父へ抱きついた。幼い頃に甘えられなかった時間を取り戻すように。「父上……!」サクラディウスは静かに娘を抱きしめる。「泣いていい。」「今だけは、王女ではな

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第66話 親友

    西門では、フジとヘリアンサスが巨大な魔物と激しく剣を交えていた。轟音が響くたび、大地が揺れる。王都を守る兵士たちは必死に応戦しているが、その表情には疲労の色が濃く浮かんでいた。一方、王城の最上階。世界樹へ続く祭壇の前で、ルピナスは立ち尽くしていた。「私……本当に、この世界を救えるのかな。」小さく漏れた本音。ここまで何度も前を向いてきた。それでも、大切な人たちが命を懸けて戦う姿を見るたび、不安は胸を締めつける。「もし私が失敗したら……。」「みんなの想いまで無駄になる。」肩が震えた。その時だった。コンコン。静かに扉が叩かれる。「入るわよ。」聞き慣れた声だった。振り返ると、ダリアが優しく微笑んでいた。「探したわ。」ルピナスは慌てて涙を拭う。「ダリア……。」「泣いてたでしょう?」「泣いてない。」「昔から嘘が下手なんだから。」ダリアはくすりと笑い、ルピナスの隣へ並んだ。しばらく二人は何も話さなかった。幼い頃から一緒だった。だからこそ、沈黙さえ心地よかった。やがてダリアが口を開く。「覚えてる?」「七歳の時、庭園の池に落ちたこと。」ルピナスは思わず吹き出した。「もう、やめてよ。」「あれは事故だったの。」「事故?」「あなた、自分で白鳥を追いかけて飛び込んだじゃない。」「そんなことしたっけ?」「したわよ。」二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。戦場のすぐ近くとは思えないほど、穏やかな時間だった。笑い終えると、ダリアは真剣な表情になる。「ルピナス。」「あなた、昔から何でも一人で抱え込む癖がある。」その言葉に、ルピナスは黙り込む。「前世でも、そうだったんでしょう?」図星だった。誰にも相談せず、一人で運命を変えようとしていた。その結果、多くの人を失った。「でも今回は違う。」ダリアはルピナスの両肩に手を置いた。「あなたの隣にはフジ様がいる。」「ローゼン様もいる。」「アスター様も。」「そして……私もいる。」ルピナスの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。「怖いの……。」「うん。」「みんなを失うのが怖い。」ダリアは優しくルピナスを抱きしめた。「私だって怖い。」「でもね。」「怖いからって、あなたを一人にはしない。」その温もりは、子どもの頃と変わらなかった。泣き虫だったルピナスを

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第66話 親友

    西門では、フジとヘリアンサスが巨大な魔物と激しく剣を交えていた。轟音が響くたび、大地が揺れる。王都を守る兵士たちは必死に応戦しているが、その表情には疲労の色が濃く浮かんでいた。一方、王城の最上階。世界樹へ続く祭壇の前で、ルピナスは立ち尽くしていた。「私……本当に、この世界を救えるのかな。」小さく漏れた本音。ここまで何度も前を向いてきた。それでも、大切な人たちが命を懸けて戦う姿を見るたび、不安は胸を締めつける。「もし私が失敗したら……。」「みんなの想いまで無駄になる。」肩が震えた。その時だった。コンコン。静かに扉が叩かれる。「入るわよ。」聞き慣れた声だった。振り返ると、ダリアが優しく微笑んでいた。「探したわ。」ルピナスは慌てて涙を拭う。「ダリア……。」「泣いてたでしょう?」「泣いてない。」「昔から嘘が下手なんだから。」ダリアはくすりと笑い、ルピナスの隣へ並んだ。しばらく二人は何も話さなかった。幼い頃から一緒だった。だからこそ、沈黙さえ心地よかった。やがてダリアが口を開く。「覚えてる?」「七歳の時、庭園の池に落ちたこと。」ルピナスは思わず吹き出した。「もう、やめてよ。」「あれは事故だったの。」「事故?」「あなた、自分で白鳥を追いかけて飛び込んだじゃない。」「そんなことしたっけ?」「したわよ。」二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。戦場のすぐ近くとは思えないほど、穏やかな時間だった。笑い終えると、ダリアは真剣な表情になる。「ルピナス。」「あなた、昔から何でも一人で抱え込む癖がある。」その言葉に、ルピナスは黙り込む。「前世でも、そうだったんでしょう?」図星だった。誰にも相談せず、一人で運命を変えようとしていた。その結果、多くの人を失った。「でも今回は違う。」ダリアはルピナスの両肩に手を置いた。「あなたの隣にはフジ様がいる。」「ローゼン様もいる。」「アスター様も。」「そして……私もいる。」ルピナスの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。「怖いの……。」「うん。」「みんなを失うのが怖い。」ダリアは優しくルピナスを抱きしめた。「私だって怖い。」「でもね。」「怖いからって、あなたを一人にはしない。」その温もりは、子どもの頃と変わらなかった。泣き虫だったルピナスを

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第65話 騎士の誓い

    西門を吹き抜ける風は、血と黒い霧の匂いを運んでいた。崩れかけた城壁の向こうから、絶望の化身が生み出した魔物たちが次々と押し寄せる。その数は数百。いや、すでに千を超えているのかもしれない。「来るぞ!」ヘリアンサスが剣を構え、兵士たちへ号令を飛ばす。「弓兵、第一列!」「魔導士は後方支援! 民の避難を最優先に!」兵士たちは震える手で武器を握り直した。恐怖は消えていない。それでも、一人として逃げる者はいなかった。ローゼンの演説が、彼らの心に火を灯したのだ。黒い魔物の群れが、一斉に城門へ襲いかかる。「撃て!」無数の矢が夜空を切り裂く。しかし、魔物たちは倒れても倒れても立ち上がる。「くそっ……!」兵士の一人が弾き飛ばされる。巨大な魔物が牙を剥き、その兵士へ飛びかかった。次の瞬間。ギィンッ!鋭い金属音が響く。黒い剣が魔物の牙を受け止めていた。「立て。」低く落ち着いた声。フジだった。「まだ終わってない。」一閃。黒い魔物は真っ二つに切り裂かれ、霧となって消えていく。兵士は呆然とフジを見つめた。「ありがとう……ございます。」「礼はいい。」フジは視線を前へ向けたまま答える。「守るべきものを守れ。」その一言だけ残し、再び戦場へ駆け出した。「すごい……。」若い兵士が思わず呟く。「あれが……黒狼騎士。」ヘリアンサスは小さく笑った。「見惚れるな。」「俺たちも負けていられん。」そう言うと、自らも魔物の群れへ飛び込む。剣と剣がぶつかり合う音。魔法が夜空を染める光。悲鳴。叫び。それでも二人の騎士は、一歩も退かなかった。その頃。王城の塔では、ルピナスたちが戦場を見下ろしていた。「フジ……。」思わず駆け出しそうになるルピナスを、ラベンダーが静かに止める。「今、あなたが行く場所ではありません。」「でも!」「彼はあなたを守るために戦っています。」ラベンダーの瞳は優しかった。「その覚悟を、無駄にしてはいけません。」ルピナスは拳を強く握る。悔しかった。大切な人たちが命を懸けているのに、自分は見ていることしかできない。その気持ちを察したように、アスターが口を開く。「焦るな。」「戦いには、それぞれの役目がある。」彼は西門を見つめながら続けた。「騎士は道を切り開く。」「王は民を導く。」「賢

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第64話 王の覚悟

    夜空を覆っていた黒雲は、なおも王都へ絶望を降らせ続けていた。絶望の化身の胸には、ルピナスが放った光の剣による亀裂が刻まれている。だが、その傷はゆっくりと黒い霧に覆われ、再び塞がり始めていた。「傷が……治っている。」ダリアが息を呑む。ラベンダーは静かに目を閉じた。「世界中に絶望が残る限り、あの化身は何度でも再生する。」その一言が、その場の空気を凍らせる。「そんな……。」ルピナスは唇を噛み締めた。「倒せないの……?」「倒せる。」ラベンダーは迷いなく答えた。「だが、そのためには王都を守らねばならない。」「人々の希望が消えれば、絶望は再び力を取り戻す。」その時だった。王都の西門から爆発音が響いた。「魔物です!」「結界が破られました!」兵士の叫びが王城へ響く。絶望の化身から生まれた黒い魔物たちが、次々と街へなだれ込んできた。泣き叫ぶ子どもたち。避難する民。逃げ惑う人々。「まずい……!」ヘリアンサスが剣を抜いた。「このままでは市街地まで突破されます!」ローゼンは王都を見渡す。民が怯えている。兵たちも疲弊し、士気は下がっていた。それでも。彼はゆっくりと王冠へ手を添える。「父上。」サクラディウス国王を見る。「ここは私にお任せください。」国王は静かに息子を見つめた。そこには、幼い王子の姿はなかった。民を守ろうとする、一人の男が立っていた。「……行け。」ただ一言。その言葉に、ローゼンは深く頭を下げる。「必ず、この国を守ります。」彼は王城のバルコニーへ立った。避難する民へ向かって、大きく声を張る。「聞け! 我が国の民よ!」王都中へ、その声が響き渡る。「恐れるな!」「私は、ここにいる!」ざわついていた民が、一斉に顔を上げる。ローゼンは黄金の剣を高く掲げた。「私は最後まで、この国を離れない!」「最後の一人になるまで、民を守る!」その宣言は、王子としてではなかった。未来の王としての誓いだった。兵士たちが次々と剣を掲げる。「王子殿下と共に!」「王都を守れ!」失いかけていた士気が戻っていく。その姿を見ていたマーガレットは、小さく微笑んだ。「ようやく……あなたらしい顔になりましたね。」彼女は避難所へ駆け出す。「医療班は私について来てください!」「子どもたちを最優先に!」貴族

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第63話 最後の一撃

    世界樹の光が王都を優しく照らしていた。その輝きは、人々の心に宿った希望そのものだった。絶望の化身は大きく後退し、胸元には紫色の亀裂が広がっている。『ナゼ……。』低く響く声に、先ほどまでの圧倒的な威圧感はない。代わりに滲んでいたのは、理解できないという戸惑いだった。『何度モ……世界ハ滅ンダ。』『何度モ……人ハ諦メタ。』『何故、今ダケ違ウ。』ルピナスは静かに前へ歩き出す。「違う。」その声は穏やかだった。「今だけじゃない。」「今までだって、みんな諦めたくなんてなかった。」絶望の化身は動きを止める。「あなたは、誰かが流した涙だけを集めた。」「苦しみだけを見てきた。」「でもね。」ルピナスは胸へ手を当てる。「涙の隣には、必ず笑顔もあったの。」「誰かを守りたい想いも。」「愛した記憶も。」「希望も。」その言葉に、絶望の化身の身体がわずかに揺らぐ。アスターが静かに呟いた。「そうか……。」「私は間違っていた。」フジとローゼンが振り返る。アスターは苦しそうに笑った。「私は世界を救おうとして、悲しみばかり見続けていた。」「だから、この怪物を育ててしまった。」何百年もの後悔。何百年ものやり直し。救えなかった命ばかりを数え続けた結果、絶望だけが膨れ上がってしまったのだ。「なら。」ローゼンが剣を構える。「終わらせよう。」フジも隣へ並ぶ。「今度こそ。」三人がルピナスの左右へ並ぶ。四人は互いに頷き合った。言葉はいらなかった。想いは一つだった。「行くよ!」ルピナスの声と同時に、四人は一斉に駆け出した。フジが先頭を走る。黒い霧を剣で切り裂き、道を開く。ローゼンが黄金の魔力で結界を破壊する。アスターは銀色の魔法陣を展開し、暴走する術式を封じ込めていく。そして、その中央をルピナスが駆け抜けた。世界樹の光が彼女を包む。絶望の化身は最後の抵抗を見せる。『消エロ!』無数の黒い槍が空を覆う。しかし。フジが剣で弾き返す。ローゼンが黄金の盾で受け止める。アスターが魔法で軌道を逸らす。三人が守った一本道を、ルピナスは止まらず走った。「ありがとう。」その小さな呟きとともに、ルピナスは胸の前で両手を重ねる。世界樹の紋章が眩く輝いた。「希望は――」紫色の光が一本の剣となる。「誰にも奪えない!」光の

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第7話 王子、尾行する

    ローゼン王子は決意した。調査が必要だ。なぜルピナスが自分を振ったのか。なぜ避けるのか。なぜ「結構です!!」なのか。その謎を解かなければならない。王族として。未来の国王として。そして何より。一人の男として。「殿下」側近が声をかける。「なんだ」「現在何をなさっているのでしょう」ローゼンは真剣な顔で答えた。「尾行だ」側近は頭を抱えた。学院の放課後。ルピナスは上機嫌だった。隣にはダリア。今日も美人である。「ダリアー!」「なんですの」「ケーキ!」「知っていますわ」「楽しみね!」「貴女は犬ですの?」ルピナスは笑った。前世ではほとんど話せなかった。

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第6話 フジという男

    帰りの馬車の中。ルピナスは向かい側に座るフジを見つめていた。フジは窓の外を見ている。無言。ひたすら無言。静かだった。あまりにも静かだった。ルピナスは耐えられなくなった。「フジ」「なんだ」返事は早い。「趣味は?」「剣術」「それ仕事では?」「そうだな」会話終了。ルピナスは困った。ダリアがいたら笑っていただろう。「好きな食べ物は?」「米」「子供?」「違う」会話終了。ルピナスは天井を見上げた。何この人。難しい。しばらくして。フジが口を開いた。「お前」「なに?」「なぜ王子を振った」ルピナスは固まった。核心だった。聞かれると思っていた。

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第5話 友達になりましょう

    ダリアは頭を抱えていた。目の前には満面の笑みを浮かべたルピナス。意味が分からない。本当に意味が分からない。「友達になりましょう」「断りますわ!」即答だった。教室中が頷いた。当然である。普通ならここで終わる。だが。ルピナスは普通ではなかった。「そう」「そうですわ」「じゃあ明日また聞くわ」「聞かなくて結構です!!」ダリアは思わず叫んだ。ルピナスは感心したように頷く。「良い声ね」「何を言ってますの!?」「将来有望だわ」「何がですの!?」ダリアは混乱していた。授業終了後。ルピナスは帰宅準備をしていた。そこへ。ローゼンが現れる。「ルピナス」「結構

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第4話 なぜ僕が振られる?!

    翌朝。第一王子ローゼンは寝不足だった。目の下にはうっすらと隈。朝食のパンを見つめながら呟く。「なぜだ……」隣にいた国王が顔を上げた。「何がだ?」「なぜ振られた」国王はパンを落とした。「は?」「ルピナスに振られた」「誰が?」「俺が」「ルピナスに?」「そうだ」国王は頭を抱えた。朝から重い話だった。「何かしたのか?」「していない」「本当に?」「していない」国王は疑わしい目を向けた。ローゼンは真剣だった。本気で分からないのだ。「ルピナスは昔からお前を好いていただろう」「そうだ」「ではなぜだ」「それが分からない」親子揃って分からなかった。その頃

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status